あらすじ:学院卒業後、パリの大学に進学した宗と、半月に一度のペースで宗のアパルトマンに遊びに来る英智の話。
今のところ宗←英で全年齢だけど先のことは未定です。くっつくとは思う。
「続きを読む」からどうぞ。
巴里にて(宗)
天祥院の管轄下にあると言っても過言ではなかった夢ノ咲学院を卒業してパリの大学に進学し、ようやく自由な生活を満喫出来るようになったのに、最近は当の本人である天祥院がアパルトマンに遊びに来る。
彼は前に来た時も何をするでもなく部屋でゴロゴロして「このアパルトマンは古いから防音性が低いと思う」と人の選んだ物件にケチをつけて帰っていった。
実際、このアパルトマンは古いのだが。
パリは空襲を免れ、地震も少ない。
築百年以上のアパルトマンは珍しくなく、僕はこの重厚な佇まいが気に入っているのだが、改修されているとはいえ古い建物ならではの問題に頭を悩ませることもあるから、彼の指摘も理解は出来る。
ただ、奴に僕の住処をけなされたくはないという感情的な理由で面白くなかった。
そして今日もベルが鳴り、ドアの前に天祥院が立っていた。
「やぁ」
にこやかな彼に対して、僕は冷めた目をしていた。
「…御曹司というのは意外と暇なのだね」
「失礼だな。暇がないのに時間を作っているんだよ」
天祥院はそう言って、僕の返事も待たずに部屋に上がり込んだ。
「おい!勝手に入るんじゃない!」
「僕に見られたくないものでもあるの?だったら尚更チェックしないと」
喜々として奥に向かおうとする天祥院の肩を掴むと、彼は自分の肩に触れた僕の手を見てふふっと笑った。
一体何が嬉しいのだろう。
僕は天祥院の言動に一度たりとも親近感を覚えたことがなく、僕にとって彼はよく分からないものの代表だった。
宇宙の果てとか、ジャングルの奥とか、そういう類のもの。
しかも果敢に追及したところで、その先に素晴らしい何かがあるとも思えない。
見返りのない謎には最初から関わらない方がいい。
(続)