日記

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【宗英】恋人は巴里(パリ)にいる⑩

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このブログほぼ自分しか見てない気がするので人様の気配があると滅茶苦茶嬉しいです。砂漠で一人じゃなかった的な。

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巴里にて(宗)

十一月下旬の夜。

授業を終えた後はパリ市内にある美術館を見学し、ティーサロンで小腹を満たして帰宅した。

真っ暗な部屋に入り、照明をつける。

天祥院がいない平日の夜は静かなものだ。

テーブルの上に置いた小さなカレンダーを手に取って、じきに終わる十一月のページをめくった。

そして現れた十二月のカレンダーを見てやっと、今年はクリスマスイブとクリスマス当日が土日だと気付いた。

(そういえば今年は土日なのか…どうしようかな)

きっとクリスマスも天祥院はアパルトマンに来るだろう。

日本の商業主義的なクリスマスは好きではないけれど、ここは海外だ。

メインストリートは混みあっているだろうが、静かな場所であれば彼を連れ出してやるのもやぶさかではない。

店にもクリスマス独自の食材やオーナメントが並ぶ時期だから、普段とは違うごちそうを作って多少は室内を飾り立ててもいいかもしれない。

彼は僕よりもずっと俗っぽいから、そういうのを喜ぶんじゃないだろうか。

 

+ + +

 

十二月の上旬にアパルトマンにやって来た天祥院と普段通り何でもない話をして、一緒に鍋の準備をした。

鍋は楽でいい。

ついこれに頼りがちになる。

「今日は洋食っぽいね?」

揃えた材料を見た天祥院が不思議そうにしている。

「魚介だしでクラムチャウダー風にしようと思って」

「いいね」

どっしりとした和の土鍋を使って、洋風の鍋料理を作るのもなかなか楽しい。

白ワインで蒸したあさりの煮汁が食欲をそそる。

それを鍋に入れると、先に入れたきのこやベーコンと混ざって見た目も賑やかになった。

牛乳を入れて、パセリを加えて…と忙しなく手を動かす僕の隣で、天祥院はただ幸せそうに鍋を見ていた。

彼に手伝いなど最初から期待していないので好きにしたらいい。

彼の分をよそったスープボウルを渡すと、両手で受け取って「あったかい」と言って目を細めた。

「ありがとう、斎宮くん」

「…ああ」

…こうやって二人並んでソファに座るのは良くないかもしれない。

距離が近すぎて、どことなく落ち着かない。

僕と並んで無心にスープを飲んだ彼は、ふぅと息を吐いてこちらに体を傾けた。

「僕に寄りかかるんじゃない。重いと言っただろう」

「あったまったら、だるくなっちゃった」

「…そうかね」

何となくそれ以上は言えず、されるがままになった。

とりあえず半月後の希望について聞いておこうと、僕は彼に尋ねた。

「そういえば、君はクリスマスイブに何かしたいことはあるのかね?」

「え?」

「僕は日本のクリスマスには興味はないけれど、今はパリにいるのだから少しくらいなら街に出てもいいし、食べたいものがあるなら用意しないでもないのだよ」

当然、半月後の土日も彼はここに来るものと思ってたが、返ってきた返事は意外なものだった。

「あ…ごめんね。24日と25日は、ちょっと…」

「都合が悪いのかね」

「うん、前から約束があって」

「仕事の?」

彼は日本で活躍しているアイドルだから、クリスマスイブに生配信の仕事が入っていても驚きはしない。

「ううん。仕事じゃなくて、ええと…人と会うことになってて…」

言いにくそうに言葉を濁す彼に、それ以上深く尋ねることはしなかった。

要するに、彼は既に誰かとクリスマスの夜を過ごす約束をしていて、それは僕のところに来るよりも優先度が高いのだ。

「…そうかね」

「それと年が明けたら仕事関係の挨拶回りもあるから、次に来られるのは一月の下旬になると思う」

「そうかね」

斎宮くん?」

ぶっきらぼうに同じ相槌を繰り返す僕に、天祥院が首を傾げた。

「どうしたの?」

「…何でもないのだよ」

僕はそう答えてスープを飲み干した。

(続)