宗×英の可愛いところ。
プライドばっかり高いヘタレな俺様×甘えっ子っていうのがとても(私の)性癖に刺さって(私の)世界平和って感じです。
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巴里にて(宗)
一人で過ごす12月24日の昼過ぎ。
レモンの果汁を絞ると、爽やかな匂いがキッチンに広がった。
果肉を潰した後は、皮を包丁で削って細かく刻む。
目にも鮮やかなイエローと柑橘の香りに励まされても、今一つ元気は出なかった。
本来なら二人でやろうと思っていたケーキ作りを一人でやっているせいだろうか。
僕は天祥院がクリスマスイブにアパルトマンに来ることを疑いもせず、無意識のうちに先走って予定を考えていたのだ。
例えば、冬に出回る質のいいレモンを使ってグラスアローの美しいウィークエンドシトロンを焼こう、などと。
彼が来ないと分かった後も、他に予定を入れるでもなく、その結果こうして一人でケーキを作っている。
完成した生地を型に移してオーブンに入れ、焼けるのを待った。
洗い物を終えて手を拭き、ついスマホを手に取ったが、何の連絡も来ていない。
天祥院の連絡先は知っていたが、やりとりをしたことは殆どなかった。
彼は僕がアパルトマンにいることを前提に決まった時間にやって来るのが常で「今から行っても構わないか」という本来ならあるべき確認など取らないから。
そして日本にいる時の彼は多忙で、僕にメッセージを送っている暇などないのは想像に難くなかった。
時間に余裕のない彼が、土日には時間を確保して必ず僕のところにやって来る。
その事実に自惚れていたのだと、オーブンの中で膨らんでいく一人分には大きなケーキを眺めながら思った。
(今頃、日本は夜か)
暗転したスマホの画面を再度つけて、天祥院の連絡先を表示して、そこで動きを止めた。
連絡してどうするのか。
クリスマスイブの夜に「メリークリスマス」と伝えるために電話をする時点で己の流儀に反している上、僕は彼に「いま誰とどこにいるのか」としつこく聞かない自信がなかった。
(…駄目だ、格好悪いにも程がある。僕にだってプライドはあるのだから)
僕はキッチンテーブルに置いたスマホを手で遠ざけた。
せっかく日本の商業主義的なクリスマスの騒ぎから遠ざかることが出来たのに、理想のクリスマスイブを過ごせずにふてくされているなんて嫌になる。
気分がスッキリしないままぼんやりしていると、ケーキが焼きあがった。
型から外したケーキの上部を平らにカットしてひっくり返し、後はスピード勝負だ。
粉糖とレモン汁を混ぜて作ったグラスアローの液を手早くかけて、側面はパレットナイフで均等に仕上げる。
作業に没頭しながらも頭の片隅には「こういう作業を彼に見せたかったのに」という気持ちがあり、気持ちの乱れはケーキの側面に小さなムラを残した。
(続)