日記

カテゴリー(スマホ版は画面下部)で雑記と小説を分けています。

【英宗】恋人は巴里(パリ)にいる⑫

書き始めた頃は「くっついて終了」の予定だったんですが、これからの二人のデートやら何やらも書きたくなったので、もうしばらく続きそうです。書くのが楽しくてなかなか完結できない…。

英宗も書きたい話があり、同時進行するか一個ずつ完結させてからにするか悩み中です。

ストックがないので更新頻度が落ちるかもですが、細々と書いては載せていくので、引き続きお暇な時にお付き合いいただけると嬉しいです。

ここまで見て下さってありがとうございました。ではでは~ ⸜( ´ ꒳ ` )⸝

 巴里にて(宗)

一月下旬、天祥院は以前と変わらない様子でやって来た。

「やぁ、久しぶりだね。明けましておめでとう…って、ちょっと遅いかな」

ふふっと笑う声が心なしか明るく弾んで聞こえてモヤモヤした。

「…君は楽しい冬休みを過ごしたようだね」

「うん。といっても殆ど家にいたけどね」

荷物整理を済ませてすぐにリビングのソファに飛び乗って寛ぐ彼に、嫌がらせ半分で砂糖を大量投入したミルクティーを出すと、彼は一口飲むなりにっこりと笑った。

「美味しい」

「…嘘だろう?かなり甘くしたのだけど」

「最近忙しくて疲れ気味だったから、これくらいの甘さが丁度いいよ」

「茶葉の味が死なないかね。紅茶にこだわる君らしくもない」

「紅茶を味わいたい時はストレートで飲むよ。ミルクティーは娯楽だからいいんだ。これだけ甘みが強いならチャイっぽくしたいなぁ。シナモンとクローブも入れていい?」

「どうぞ。キッチンにあるよ」

僕はスパイスの瓶を取りに行った彼の後ろ姿を眺めながら、自分用の無糖のミルクティーに口を付けた。

何事もなかったようにまたアパルトマンに顔を出す天祥院にほっとした反面、面白くなくもあった。

しばらくすると、スパイスの香りを漂わせた彼がリビングに戻ってきた。

「ジンジャーパウダーも拝借したよ。ミルクティーはこうやって遊べるのが面白いんだよね」

彼はごく自然に僕の隣に座って、エキゾチックな香りのミルクティーを飲んだ。

「…うん、向こうで過ごすクリスマスもお正月も悪くなかったけど、やっぱりここが一番かな」

「…」

ここ、とはどこを指すのだろう。

パリのことなのか、それとも僕の隣のことなのか。

「…だけど、クリスマスは大事な約束だったのだろう?」

根に持っていたことが口をついて出た。

「まぁね。半年前から約束してたし」

「では、僕のところよりそちらの方がいいんじゃないかね」

「…」

我ながら恨みがましく響いた言葉に彼は目を瞬かせ、わざわざ前のめりになって僕の顔を覗き込んだ。

ふっと柔らかく微笑んだ彼が、僕に尋ねた。

「…ねぇ、クリスマスに家族と過ごすのって、そんなに変かな」

「は?」

天祥院はポケットからスマホを出して、写真を表示した。

撮影日時は12月24日の23時。

ケーキを前にした天祥院がスマホを持って自撮りをして、その周りには彼の両親と思われる人物が映っている。

「うちの両親は多忙だし、僕も去年のクリスマスは学校行事と仕事があって、今年も社会人一年目で慌ただしくてさ。だから今年のクリスマスは家族水入らずで過ごそうって、ずっと前から約束していたんだ」

「ではそう言えばいいだろう!?」

僕はつい大声を出した。

まさか彼がこんな健全なクリスマスを過ごしているとは思いもしなかったのだ。

僕の言い分に、彼は照れくさそうに俯いて言い訳をした。

「だって、もう大人なのに親とクリスマスパーティーって恥ずかしくない?」

「恥ずかしいって…それが本来あるべきクリスマスの姿だろうに」

人と約束があるとか、仕事ではないとか、確かに嘘ではないが紛らわしいにも程がある。

「そもそも君の言い方が悪いのだよ。クリスマスイブに約束があるなんて言うから、僕はてっきり…」

僕の言葉を聞いて、天祥院が静かに目を輝かせた。

「…てっきり、なに?」

「いや、別に」

僕はそっぽを向いてこの話題を切り上げようとしたが、彼はそうはさせてくれなかった。

「ねぇ、てっきりどうしたの?何を考えてたの?」

「ああもう、この話は終わりなのだよ」

斎宮くん」

天祥院が僕の肩に手を乗せて、止める間もなく僕の唇にキスをした。

ほんの一瞬、触れただけ。

柔らかい唇はすぐに離れていった。

彼は僕の隣に座ったまま、悪戯っぽく笑って早口で言った。

「これくらい、いいよね?クリスマスプレゼントと、お年玉と、僕の誕生日プレゼントを兼ねてだもの」

冗談めかせた口調だったが、浮かんだ笑顔はぎこちなかった。

不自然にすらすらと彼は言葉を続ける。

「ああ、でもプレゼント三つ分には足りないかな。折角なんだし、もっと貰えば良かっ…」

何でもない悪戯を装っているくせに、彼は視線を落としたまま僕を見ようとしない。

自分で仕掛けておきながら事の顛末を恐れているのだとすぐに分かって、僕は彼を抱き寄せて唇を奪った。

「えっ?…ぅ…ん…!」

彼は戸惑った声を上げて、それでも抵抗はせず大人しく目を閉じた。

キスなんて、さっき彼にされたのが初めてだ。

聞きかじりの知識だけを頼りに、彼の口に舌を入れて中を犯す。

緊張した背中や腕は何度撫でても力が抜けず、その臆病さを愛しいと思った。

「…は、ぁ…」

長いキスが終わって、解放された彼は夢心地の瞳で息を乱していた。

「ど…して…?」

「クリスマスと誕生日のプレゼントとお年玉を兼ねているのだろう?君にケチだと思われるのは我慢がならないからね」

顔が熱いのが自分でも分かる。

赤く染まっているであろう顔を見られないよう、彼を再度抱き寄せてそう告げた。

僕の肩に顔を埋めて、天祥院が言葉を詰まらせながら話す。

「…いいの?ねぇ、間違えたなら今のうちに言ってよね」

声は怯えたように掠れていた。

「あとから、やっぱり無理って言わないで…」

キスを交わした後なのに、彼はまだ余計な心配をしていた。

僕が気に入った人間にどれだけ執着するか、彼はよく知っているだろうに。

「言わないよ。いつも、君が来る週末を楽しみにしていたよ」

「本当?」

驚いている彼に呆れた。

そのくらい、改めて言葉にしなくても伝わっていると思っていた。

「ああ」

「…斎宮くんってやっぱり馬鹿だね。貴重な土日を潰されて、パリで恋人を見つけそびれたのに」

以前彼が言っていた「嫌がらせに来ている」とはそういうことだったのか。

彼にしては非効率的な手段だ。

「あまりいい策ではないね。たかが半月に一度では虫よけにならないだろうに」

「そうだね…会いたいから来ていただけかも」

天祥院がそう言って僕に向かって微笑んだ。

斎宮くん」

「何かね」

「来年のクリスマスイブは斎宮くんと一緒にいてあげるね」

上から目線な申し出に、僕はふんと鼻を鳴らした。

「君の好きにすればいいのだよ。僕はクリスマスなんて特に興味はないからね」

僕の返事を聞いた天祥院は唖然として、やがて弾かれたように笑い転げた。

(続)