英智さんは本気で斎宮さんのことを愛していると自分では思っていて、斎宮さんがそれを愛じゃないって頭で正確に理解していながらも情が湧いてなかなかシャットアウトできないのはめんどいけど、もしなまじ斎宮さんが英智さんからの表面的な愛でワーイって言える性格だったら傍目には嚙み合ってしまって英智さんの自己愛で斎宮さんが飼い殺しにされてしまうのでそれはそれで怖い。長い妄言。
四(英智)
「……天祥院?」
一ヶ月ぶりに愛し合った後、斎宮くんが僕に心配そうな目を向けた。
「疲れているようだけど、何かあったのかね」
「そうかな」
情報漏洩の最たるものはベッドの中だという。
感情が顔に出がちな斎宮くんが何者かの息がかかったスパイだとは思わないけれど、セックス後の気が緩んだ時に打ち明け話をするのは良くないことは知っている。
「何でもないよ。斎宮くんに会うのが楽しみだったから、夜更かしして仕事を終わらせただけ」
彼は疑わしそうに僕を見つめて、やがて目を逸らした。
「僕には話してくれないのだね」
「そんなことないよ」
すぐに否定したけれど、斎宮くんは拗ねたままだ。
本音を言えるだけが良い関係のお手本でもないだろうに。
弱みを見せたくないという気持ちもまた生き方に張りをもたらしてくれる。
少なくとも生まれた瞬間から弱みしかない自分はそういうやり口しか知らない。
僕は斎宮くんを引き寄せて、ふんわりした髪に頬を押し当てながらこめかみにキスをした。
キスをされた斎宮くんは黙ったまま、ありきたりな愛の言葉を待って僕を見つめていた。
そんな凡百なつまらないものを僕から引き出そうと躍起になって、でもそのことすらプライドの高い彼は隠そうとする。
こうして物欲しさと屈辱がないまぜになった瞳で睨まれると気分が良かった。
この人は可愛い。
そして妬ましい。
生まれた時から病名で把握されることもなく、若いうちから病の十字架を背負って歩く苦痛を知らず、才能に溢れている。
同じような時期、同じような場所で誕生した人間同士にこうまで差をつけてそれを是正もしない神は僕にとっては神ではない。
妬ましい人間は多くいるが、斎宮宗が最も僕の気分を慰めてくれる。
(続?)