浴衣のお仕立てを理由にセッ…を避ける斎宮さんと、お誘いに力を入れる英智さん。
十(宗)
「浴衣はいつ出来るのかな?」
「…君は毎晩それを聞くね」
反物を買ったのは正解だった。
仕事の依頼とは別に英智の浴衣を仕立てているとなれば、僕が寝室に来るのが遅くなる言い訳も立つ。
お陰でほぼ毎晩だった英智からの誘いを減らすことに成功した。
(まぁ、全くご無沙汰になっても怪しまれるだろうから数日に一度くらいは早めに来るようにはしているけれど…)
別に喧嘩をしたい訳ではないし。
建前だとしても英智は僕を好きだと言ってそういうことをしたがるし、僕だってそれ自体は悪い気はしないような気もしないでもない気がするようなしないような…。
「…斎宮くん、今日は?」
「すまないけど、明日早くからクライアントと打ち合わせがあるから」
「そっか、仕方ないよね」
しょんぼりとした英智が「おやすみ」と言って布団に入った。
それを見ると僕の方が後ろ髪を引かれる。
英智とするのが嫌なのではない。
(渉のことがなければ僕だって…いや、そんなことは)
特に恋情は抱いていない筈だ。
ただ偶然迎え入れた英智が思いのほかそっち方面にも積極的で翻弄されているだけで。
(単に免疫がないのだろうね。可愛らしい子にアプローチされたり、そういうことをしたり…なんて俗な経験がないから。もっと奔放な学生時代を送っていたら、こんな些細なことで悩んではいないのだよ、きっと)
英智はこちらに背中を向けて眠っている。
僕からはしないと決めているが、触りたい相手がすぐ傍にいるのに何もできない夜はもどかしかった。
+ + +
…昨晩、物足りない気分で寝たのが敗因だ。
「ぅん…んむぅ…」
夜中に寝室に入った僕は、待っていた英智の「本番は無理でもキスなら」という誘いに乗せられ、胡坐をかいて彼を乗せてキスを繰り返している。
しなやかな両腕が背中に回されて、甘えた声をたっぷり聞かされながらキスを交わしているだけで飛ぶように時間が過ぎる。
(若干やりすぎな気がするけど、キスくらいなら…)
本番に及んでしまうよりはマシだ。
そう心の中で言い訳をしながら、ぴたりと密着してくる英智と際限なく舌を絡めていると。
「んぅ…、まって、いちど離して…」
英智がうっとりした眼差しのまま僕から唇を離した。
「英智?」
「ん…ちょっと休んでからでないと、むり…」
英智がもぞもぞと太ももを擦り合わせた。
「初めてキスした時、きもちよくて出ちゃって…」
「出た、って」
「うん…下着、とろとろになっちゃって洗うの大変だったから、気をつけないと」
恥ずかしそうに打ち明ける英智の身体を見下ろすと、ズボンの一部がこんもりと盛り上がっている。
「……今はどうなのかね?」
「え…と、汁は少し出ちゃってるかな…って、変なこと言わせないで」
英智がそう僕をたしなめてから「あんまり見ないでね」と念を押した。
「また下着が汚れるのは困るけど、斎宮くんとキスはしたいから…」
そう言って彼はズボンと下着を下にずらして、欲情したあそこを露わにする。
「!?英…」
「恥ずかしいから見ちゃ駄目だってば。ほら、またキスして…」
再び舌を撫であうキスをしながら、英智を乗せた太ももに小刻みな振動が伝わってくるのを感じた。
「…ん……いつきく…、すき…」
英智は独り言のように時折そんなことを口にしつつ、キスをしながら手を下腹部の辺りで忙しなく動かしていて、見えなくても何が起きているか把握出来た。
たまにチュクチュクと水音が混じるのが想像に色を添える。
(どういう理性耐久テストなのかね…!?)
正直見たい。
見るだけなら罪にはなるまいとキスをしながら顔を動かそうとすると、すかさず英智が「見ちゃ駄目って言ったじゃないか」と牽制してくる。
生殺しの気分でキスを続けていると、やがて英智の手つきが切羽詰まったものに変わった。
「ん、っふ……んぅ…いつきくん……っ」
いく瞬間に名前を呼ばれてどきりとした。
「はぁ…良かった、この前は全部パンツの中に出しちゃったから…」
やっと見下ろせた先では、英智が白い体液を出して小さく戻ったあれを見せつけるようにゆっくり愛撫している。
「…」
僕は英智を太ももに乗せている。
だから当然誤魔化しようがない。
「斎宮くん、夜中なのに元気だね。それで眠れるの?」
「…このくらいすぐに治まるからいいのだよ」
「ふぅん」
英智が一瞬久しぶりに胡散臭い笑顔を見せてから、甘えるように僕の胸にもたれた。
「オナニーしたら欲しくなっちゃった…駄目かな?」
(この…!)
自慰まで披露したのはこのためか。
冷静な時ならともかく、こんな状態にされては断れない。
(どうしてこう、しょうもない悪知恵がきくのかね…)
そして僕は何度彼の策略とやらに嵌められるのか。
「わ、分かったよ。もう夜中だし手短にするからね…!」
キス付きの自慰で焦らされた後に臨んだセックスは言葉にならないほど良くて、うっかり二発も彼の世話になった僕は翌朝また後悔に沈んだ。
(続)