日記

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【宗英】Cheating heart①

あらすじ:生徒会室で英智(Ω)が渉(α)にプロポーズしているのを聞いた翌日、今度は自分がプロポーズされた宗(α)が色々気の毒になって結婚OKしたものの、英智の本命が渉なことにだんだんモヤる話。宗英要素しかない。

※基本世界観は英宗オメガバースと同じで『番』と結婚はワンセット。

※今回は五奇人がアルファで英智がオメガです。

人物設定

宗(α):渉に告った翌日に自分のところにプロポーズに来た英智に同情して結婚を決めた。初めは特に英智を好きではない。

英智(Ω):諸事情で渉→宗と二日連続プロポーズに及んだ。宗のことが好き。

渉(α):諸事情で英智のプロポーズを保留にした。英智とはただの友達。

 

Cheating heart

一(宗)

卒業式を間近に控えた時期。

放課後に生徒会室の前を通りかかったのはほんの偶然だった。

少しだけ開いた扉から会話を漏れ聞いてしまったのも意図的ではない。

「…だから僕と『番』になって欲しいんだけど…駄目かな、渉」

(…おや)

甘えた声には聞き覚えがあった。

その一言だけで天祥院がオメガだということも渉にプロポーズしていることも分かった。

(ふぅん…大変なものだね)

元々病弱な上にオメガ性となれば生きづらいことこの上ないだろう。

だからといって僕への蛮行を許しはしないけれど。

渉が何か言い始めたので僕は踵を返した。

立ち聞きなんて品のない真似はしたくない。

(でもまぁ相手が天祥院なら渉も断りはしないだろうし…今のうちに祝いを考えておかないといけないね)

身の回りで結婚した知人はまだいない。

祝儀の相場が分からないが、下手に両親に聞けばお前も早く身を固めろと言われそうなのが厄介だ、などと考えながら僕はその場を立ち去った。

 

+ + +

 

その翌日。

僕しか残っていない手芸部の部室に下校時間ギリギリに顔を出した天祥院は昨日と同じことを言いだした。

「ねぇ斎宮くん、僕と『番』になってくれない?」

「…」

呆れて二の句が継げなかった。

昨日の今日でよくもまぁという感想しか出てこない。

(あれ?ということは渉は天祥院を振ったということだね。どうしてだろう)

顛末が気になったが立ち聞きしていたとは言えない。

「随分唐突なプロポーズだね。何か急ぐ理由でもあるのかね」

「うん、ちょっと」

聞けば天祥院は命にかかわる持病の薬とヒート抑制剤の相性が悪くて抑制剤が使えないらしい。

そのためヒートの時期は入院して鎮静剤と点滴で乗り切っていたが、それも心身ともに限界だという。

じきに春のヒートが迫っているから、それまでに『番』を見つけたいのだと彼は打ち明けた。

薬が使えず『番』もおらず、一人病室で発情期を乗り切るのが困難なのは朧げながら想像がついた。

「事情は分かったよ。でも君のご両親の意向は?天祥院家なら君の立場と釣り合うアルファのツテくらいあるだろう」

「昔は婚約者っていう人がいたんだよ。でも僕はどうも妊娠しにくい体質みたいで」

病弱でオメガ性でしかも妊娠しづらいと来た。

もはやコメントに困るレベルだ。

「それを知った相手が明らかに乗り気じゃなくなって、でもウチ相手には言いにくいだろうからこっちから断ったんだ。家同士の結婚の話はそれきりだよ」

基本的にアルファは自分の子供を欲しがる。

オメガの妊娠率の高さはアルファにとって大きな魅力だ。

病弱で自由に薬も使えない、妊娠も危ういとなると、彼と『番』になるメリットはないに等しい。

「だからって何故わざわざ僕に頼むのかね?」

天祥院個人の知り合いにもアルファはいる筈だ。

僕が知る限りでも学院内には五奇人を含めたアルファがそこそこ在籍している。

単純な疑問を投げかけられた天祥院は困った表情で俯いた。

「…だって」

聞き取りにくいほど小さな声で僕に告げる。

「だって斎宮くんのことが好きだから…」

「…」

初めて心の底から他人に同情した。

生まれながらに幾つものハンデを負って、その体で生き抜くために恋心すら偽らないといけない彼の境遇に。

振られて落ち込む時間すら惜しいほど、一人きりのヒートは恐怖なのだろう。

「構わないよ」

「…え?」

「君と『番』になって結婚もする。それでいいかね」

「えっ、うん…いいの?」

「ああ」

「本当に大丈夫?僕の家族にも言って平気?」

「別に撤回なんかしないよ」

たとえ本心では僕をどうとも思っていなかろうと、彼が僕に助けを求めてきたのは事実なのだし、無下に扱う気はなかった。

(惚れた腫れたでパートナーを見つけるより僕も気楽なのだよ)

いかな天祥院だろうと伴侶にする以上大切にはするが、僕が彼に入れ込むことはない。

恋愛やバースなんて面倒でしかないと常々思っていたから、考えようによっては悪くない話だ。

 

 

二(英智


「『番』になって結婚もしてくれるって」

「えっ!?」

斎宮くんにプロポーズした翌日の昼休み。

生徒会室で僕の報告を受けた渉は椅子から転げ落ちそうになるくらい驚いた。

「渉の勘が外れることもあるんだね」

「宗がそこまで寛大だとは…当たって砕ける可能性が大きいと思っていたんですが」

渉は首を傾げた後に僕を見上げて笑った。

「でも良かったですね」

「うん」

きっと同情なんだろうけど、それでもいい。

斎宮くんの性格上、僕が『番』でいる限り他のオメガに同時進行で手を出したりしないだろうし、結婚生活もきちんとしてくれるだろう。

僕が彼の正当なパートナーで、僕の存在が彼から他のオメガを退ける抑止力にもなる。

こんなに効率的な在り方があるだろうか。

 

(続?)