宗英がお引越ししたり、英智が渉との会話を思い出したり。
渉は宗←英だと知って喋ってるので基本的にノリが軽いけどセーフティーネットの役目は果たそうとしてくれる親切なお兄さんです。
ところでツアーイベ中も通常ライブやってます。
カードの差し替えが面倒で…オート機能つかない限りやれる気がしない…orz
三(英智)
「何故こんな急にプロポーズしてきたのかね君はッ!」
引っ越し業者が帰った後、斎宮くんが慌ただしく荷解きを始めた。
僕たちはむかし斎宮くんの曾祖父母が住んでいたという空き家を当面の新居にすることにした。
本来なら僕の結婚となれば周囲にも知らせて華々しくお祝いされるべきことだけど、次のヒートまで時間ないと知った斎宮くんは対外的なことは全部後回しにして住環境を整えることを最優先した。
手伝おうとすると私物に触るなと言われるので、手持無沙汰の僕は荒れた庭を散歩しながら渉とのことを思い出した。
+ + +
斎宮くんにプロポーズする前日。
生徒会室に渉を呼び出した僕はその時点で気落ちしていた。
(親友にこんなこと頼まなきゃいけない人生って何なの…)
一生僕を(セックス込みで)支えて下さいという理不尽な頼みを聞いてくれそうで、なおかつそれを頼める程度には気心の知れたアルファは彼だけだ。
僕が発情期を病院で乗り切っていることを彼は知っているし、理解は得られると思う。
快く応じてもらえるかどうかはともかく。
部屋に来た渉に「番になって欲しいんだけど」と頼むと、彼は「うーん」と唸って考え込んだ。
「…ごめん、やっぱりキツいよね」
「いえ、貴方が困っているのは見ていたので出来る限り協力はします。ただ拘束時間が…『番』になった場合は年に四回、一週間前後は他の予定を入れられないということですよね」
「えっ、そこなの?」
「それと結婚の約束が出来ません。うちも色々複雑で私一人の意思ではその辺りが決められないので」
「あ…そっか」
僕は『番』にばかり意識が向いていたけれど、そっちもあるんだった。
アルファは同時に複数の『番』を持てるが、結婚に関しては一般的な法律が適用されるので相手は一人だけ。
その座まで寄越せとねだるのは厚かましすぎる。
「無理を言っているのは僕だから構わないよ。むしろ渉こそ」
婚姻なしのオメガを抱えて負担じゃないの、と言いかけた僕を無視して渉が明るい表情で手を叩いた。
「そうですか、では後は拘束時間の問題だけですね。半年は自由時間を確保したいので上半期は私が、下半期は貴方とゆかりのある別のアルファの二人体制にしましょう」
「はぁ!?いや、ちょっと待っ…上半期って何!?仕事の分担の話してるんじゃないんだけど!」
話が予想の斜め上に飛んだ。
早朝にモーニングコールの名目で鳩の大群が部屋の窓を総攻撃してきた時もここまでは驚かなかった。
「年の半分を確保出来れば私には何の不都合もありません。ほら、もう一人に心当たりはないんですか?惜しいですねぇ、敬人がアルファだったら話が早かったのに」
「イヤだよ!敬人って絶対変わった性癖持ってそうだし!」
本人に言ったら怒髪天確定な言葉を叫ぶとすかさず渉が返す。
「では他にアルファの心当たりは?」
「心当たりって…夏目くんや深海くんに頼むとか?」
「断られるだけで済むと思ってるんですか?」
「うっ…」
「では零は?」
「朔間くんはイヤ!」
そこは全力で即答して肩で息をすると、渉が再びうーんと唸る。
「では天祥院家の方でアルファを二人探していただいて、月水金、火木、土日祝の三人体制で『番』の交代を―――」
「そんなほぼ毎日嚙まれる生活イヤ!ていうかシフト制な時点でイヤ!!」
「そうですか?」
「ヒートは一週間続くんだよ!?その間に毎日『番』を取っ替え引っ替えとかどれだけ爛れてるの!絶対イヤ!」
「貴方さっきからイヤしか言いませんね」
「そんなにワガママかなぁこれ!?」
「そもそも貴方、宗にはこの話をしたんですか?」
「…何で斎宮くんが出てくるの」
五奇人の中でここまで唯一話題に上がらなかった斎宮くんの名前が出て僕は怯んだ。
「だって好きなんでしょう?」
「え、っ、なんで…」
「鳩が知っていることは私も知っています」
「あの鳩スパイだったの!?」
モーニングコールの鳩が常識的な羽数の時は(そもそも鳩がモーニングコールに来るのが常識的かどうかはともかく)、僕は部屋の窓を開けて渉から預かっているエサをあげていた。
深夜から朝にかけての完全にプライベートな時間は、僕は斎宮くんの曲を流しっぱなしだったり、日中は仕舞っている彼ゆかりのコラボ商品をこっそり使ったり隠れファンとしての時間を楽しんでいて、人目には気を付けていたが鳩のことは意識していなかった。
「…まさか鳩に隠しカメラでも仕込んでた?」
「いえ、そんなことしなくてもだいたい分かります。すっぱ抜く意図はないので誰にも言いませんけど」
「…ぅ…」
大事な秘密が漏れていたことをあっけなく知らされて、茹でられたみたいに顔が熱い。
「あ、あの鳩にそこまで出来るって七種くんには言わない方がいいよ。平和の象徴が軍事利用されることになりかねないし」
「鳩が平和の象徴と言われるようになったのは、ピカソが皮肉で同族いじめをするハトを五輪のポスターに仕立てたからです。なので本来、鳩と諍いは親和性が…って話を逸らさないで下さい。まずは宗に相談を持ち掛けるべきでは?」
「イヤ!」
今日だけで何度目か知れない「イヤ」を行使した。
「斎宮くんに言ったって断られるって分かり切ってるしイヤだよ。渉だってそう思うだろう?」
「まぁ断られる可能性が大でしょうけど」
「ほらね。それこそ断られるだけじゃ済まないよ。からかって怒らせるのと本気で告白して罵られるのってダメージが違うし」
「でも何事も100%はないですよ。たとえば宗がとても…風邪をひいて冷静な判断に欠けているとか」
「相手のバグに期待するのはちょっと…」
確実性に欠ける作戦は好きじゃない。
負けると分かっている勝負に手を出すのも。
「とにかく斎宮くんには言わないから」
僕がそうキッパリ言っても、渉は納得しなかった。
「それで未練は消えるものなんですか?」
「未練って消さなきゃいけないのかな。色んなものを引きずりながら生きていくのが人間じゃないか」
「成程、それも一理ありますね。では望み通り私が貴方の『番』になってさしあげます、が」
渉が演劇の舞台の上でしか見せないような腹黒い笑顔で僕に迫った。
「今の発言からすると、貴方はこれから一生私のパートナーでありながら宗への未練を引きずって生きていくんですね?それでいいと貴方は判断したんですね?」
「…!ぃ…」
(意地悪ーーーーーー!!!!!!)
今後ずっと付き合わせてしまう渉にそんなことを言われたら玉砕してくるしかない。
逃げ道を立たれて肩を落とした僕の頭を渉の手が撫でた。
「ま、シフト制の件は冗談です。宗に断られたら私が引き受けますから安心して行ってらっしゃい」
「未練をなくしてこいってこと?」
「それもありますが…絶対無理なのと僅かでも可能性があるのは全然違うと思うので。運試しが出来ること自体ラッキーなんですから、それを自分から捨てるのは勿体ないです。私たちのことを具体的に考えるのはそれからでいいでしょう。ほら行って行って」
背中を押されて生徒会室から放り出されたものの、じゃあ早速と斎宮くんのところに向かう勇気などない。
(…せめて一晩だけでも心の準備をする時間が欲しい)
告白の準備というよりも振られて罵倒される心の準備だ。
とぼとぼ廊下を歩きながら、遅ればせながら気づいた。
(シフト制は冗談ってことは上半期は本気なのかな?)
シフト制のインパクトが強すぎたせいで上半期下半期がマトモな提案に思えてくる辺り、軽く洗脳されているような。
(あえて無謀な提案をしてハードルを上げたところで、落としどころの提案を通すっていう、駆け引きでよくあるやつだよねコレ)
そもそも渉は最初っから僕が斎宮くんを好きだと知って会話に応じていた訳で。
(なんかうまいこと誘導された気がするなぁ…)
たとえ銃で脅されたって斎宮くんに告白するつもりはなかったのに。
次の日、斎宮くんに告白してOKをもらえた時はキツネに化かされているのかもと思ったけれど、目が覚めても現実は変わっていなくて、あれよあれよという間に親同士が顔を合わせて当面の新居が用意されることになった。
+ + +
「天祥院」
庭を歩いていると縁側から斎宮くんが僕を呼んだ。
「掃除を手伝ってくれないかね」
「僕が私物を触ってもいいの?」
「あとは段ボールや紐を片づけて掃き掃除をするだけだから」
「分かったよ」
縁側に駆け戻って、雑草が伸びた庭を振り返る。
「元はいいお庭だったみたいだね」
「そうだよ。空き家になってからも両親が手入れに通っていたけれど庭までは手が回らなくてこんな有様になっているがね」
「へぇ」
「そういえば君は花が好きだったね。一度業者を入れて地面を整えた後は君の好きにしても構わないのだよ」
「いいの?」
「ああ、庭のことは君の方が詳しいだろうし。それより早く入りたまえ。生徒会長が卒業式の前に風邪をひいたらまずいだろう」
「…うん」
冬は過ぎたものの外はまだ肌寒い。
僕は斎宮くんの後ろをついて暖房のきいた室内に戻り、散らかった引っ越しのごみを拾うのを手伝った。
(続)