英智お誕生日おめでとう。この小話がなかなか仕上がらなくて困っていたけど、誕生日コミュの「チケットをくれる渉」にそれだ!ってなって作業が捗りました。2~3話くらいになる予定です。「続きを読む」からどうぞ。
ライブの誘い(英智)
『fine』のライブ本番が近づき、完成した衣装が僕たちの元に届けられた。
フィッティングルームで試着をして、都合が悪い部分があればそこを直してもらうことになっている。
僕は大きな鏡ごしに、すぐ隣でお揃いの衣装を身に着けた渉に聞いた。
「…ねぇ渉、似合ってないかな?」
「まさか。そんなことはありませんよ」
渉は目を丸くして僕の問いを否定した。
…実際のところ、自分でもよく似合っていると思う。
僕に似合う色を基調にしているのだから当然だ。
「浮かない顔ですね。どうしました?」
「うーん…今回のライブを見に来て欲しい人がいたんだけど、あんまり興味がないみたいで」
鏡に映る自分は今一つ冴えない表情をしている。
つい数日前パリに遊びに行った時に、斎宮くんをライブに誘ってバッサリ断られたせいだ。
他に予定があるという風ではなかった。
(…嫌われるよりも、無関心の方が怖いって言うし)
お盆も正月も帰国しなかった斎宮くんが、僕のライブを見に日本に戻ってくる訳がないとは思っていたけれど、ああも躊躇なく断られると寂しい。
斎宮くんが僕の目指す路線や音楽性に興味がないことも承知している。
(でも一応恋人なんだけどなぁ…付き合ってる人間の仕事に全く興味がないってどうなんだろう)
モヤモヤしながら腕周りを確認していると、渉が提案した。
「もし良ければ、私が身内用に確保した席を譲りましょうか?英智は社交界の付き合いで、いい席は手元に残っていないでしょうし」
「気持ちは嬉しいけど、席の問題じゃあない気が…あ」
人の多い場所を蛇蝎の如く嫌う斎宮くんのことだ。
人混みにもみくちゃにされるのを恐れて断った可能性は大いにある。
「…やっぱりお言葉に甘えてもいいかな。渉が持ってる席ってどこ?」
渉がスマホで見せてくれた確保済みの席一覧にはバルコニー席があった。
ここなら他に比べて席数は少ないし、今回のライブはドームではなくコンサートホールだから、バルコニー席とステージの距離もそう遠くない。
「ここ、譲ってくれる?」
(続)