とりとめなく続いてる英宗。半分くらいまで来てると思う。
五(宗)
二泊四日の強行軍で天祥院グループが所有する東南アジアのホテルに赴くことになった。
系列店舗の現地スタッフを集めた会議があるらしく、英智はそれに顔を出さなければならないという。
半月ほど前に突然、ちょっと遠出のドライブでもという雰囲気で海外に誘われた時は驚いたが、自前の飛行機と空港を持っている彼にとっては大したことではないのだろう。
立派な内装のプライベートジェットで眠っている間に現地の空港に到着し、迎えに来た車でホテルに向かう。
天祥院の跡取り息子を乗せるにしては立派な車とは言えなかった。
高級車で公道を走ると信号待ちの間に強盗に襲われることがあるそうだ。
僕は人が乗った車に押し入って貴重品を奪っていく人間の度胸と、そうしなければならない逼迫した身の上を想像しようとしたが、それはあまりにも己の生活とかけ離れていて難しかった。
+ + +
ホテルに到着して、エレベーターに向かうまでの道のりは飽きなかった。
透明度の高い強化アクリルの壁はそのまま水槽になり、中で南の海に棲む魚たちが悠々と泳いでいる。
群をなす小魚たちがオレンジの鱗を光らせながら水槽の奥に流れ込んでいった。
「……無駄遣いの極みだね」
「そう言わないで。非日常を演出するにはお金がかかるんだよ」
「君の趣味なのかね」
「いいや。海好きの雇われ支配人がホテル業で多忙になったら泳ぎにも行けないと嘆くから、それならホテルを海の中みたいにしようってうちの両親がデザイン案に付け足したんだ。話題にもなるし丁度いいって」
付け足しでは済まない規模の見直しを迫られたのは確実だが、無茶に応えられる設計担当者を確保しているのも天祥院グループの強みか。
「奏汰にも見せたかったのだよ」
南国の海を建物の中に引っ張り込んだ眺めが圧巻であることは間違いない。
奏汰が見たら喜ぶだろう。
「僕たちと泊まる部屋が別なら、次はそれも考えておこうかな」
そう返されて、僕は水槽から目を離して俯いた。
天祥院と同じ部屋に泊まることに対しては何の疑いも持っていなかった。
泊まりの旅行に同伴した時点で僕は暗に全てを了承しているのだが、改めて彼の口から部屋のことを聞くのは恥ずかしかった。
黙り込んだ僕をどう思ったのか、彼はフッと声を漏らして笑った。
「ついて来てくれるとは思わなかったよ」
天祥院は意外そうに、でもはしゃいだ様子でそう言った。
「……別に、丁度時間が空いていただけなのだよ」
無邪気に浮かれているように見えるが、彼は『Valkyrie』と僕個人のスケジュールを全て把握した上で会議の日を決定し、僕に声を掛けている筈だ。
この日程でなければ海外に行く時間的余裕などなかった。
自らが根回しをしたことなど綺麗さっぱり記憶から抜け落ちてしまったのか、彼はまるで偶然僕と予定が合ったかのように無垢に喜んでいる。
それがどことなく薄気味悪かった。
(続)